空白雑記

暇つぶし

異世界マンガ編集

俺は異世界マンガ編集だ。名前は元は加藤、今はカトゥという。

 

元は日本に住む普通の子ども部屋おじさんだった。趣味を作ろうと親に誘われて登山に出かけた俺は、気がついたらこの世界にいた。崖を落ちたような気もするがわからない。思い出せない。異世界への穴か何かがあったんだと思う。この世界ではカトウという発音がないのでカトゥになった。

 

気がついたら俺はこの世界、アナザにきていた。ここアナザは魔法がある世界だった。ただし、魔法があるだけだ。魔物も魔王もいないし、剣で戦う騎士様もいない。ただこの世界の人間は魔法が使える。マナという力に意識を集中させると、まるで日本の科学技術のようなありとあらゆる事ができる。彼らの見た目は完全にエルフのイメージだ。そして美男美女が多い。

 

最初は言葉も通じなかったが、彼らの街に連れて行かれ、言葉やある程度の教育を受けさせてくれた。魔法で大体のことが出来てしまう彼らは、とても平和的な種族として暮らしていた。怪我をしても魔法で治るし、避妊さえも魔法で自由自在だ。魔法を使えばある程度美味い料理が無から生み出せるのだから、働く必要も争う必要もない。彼らが毎日することといえばセックスくらいだ。この世界にはお金もない。

 

魔法を教わろうとしたが、俺には結局魔法は使えなかった。チートスキルどころの話ではない。俺はこの世界では完全な無能者だった。彼らは俺を珍しい生き物としてそれなりには遇してくれたが、魔法を使えない俺に対してだけは、差別をしているように思う。元の世界で子ども部屋おじさんだった頃と大して変わらないか。

 

ある日、前の世界の話を聞かれてマンガの話をしたら凄く興味を持たれた。魔法でだいたいのことが叶ってしまう彼らは、創作ということが思いもつかなかったらしい。

 

俺はマンガがすごく好きだった。自分では絵が書けないが、好きだったマンガの話は覚えていた。絵を描くのが上手い奴を紹介してもらった。俺が話を思い出して、彼がそれをマンガにする。海賊達がひとつなぎの財宝を探しに行く話にした。これが驚くほど人気が出て、彼らは俺をとても大事に扱ってくれるようになった。

 

この世界でも通用する話にするために、少し手を加える必要があった。三刀流の剣士が泥のおにぎりを食べて強くなるシーンは、土を食べると強化される土属性の魔法剣士ということになった。一番の人気キャラになったので、敵のボスはだいたい毎回こいつが土を食って倒している。

 

マンガが売れるとわかった時点で、覚えていたマンガのあらすじをすべて日本語で書き残したから、このペースだと俺が死ぬまでは余裕でこの生活が維持できるだろう。

 

今や俺はセンセイだ。お金がないのでお金持ちにはなれなかったが、魔法が使えない俺の代わりに彼らは料理を出してくれるし、セックスもさせてくれる。何不自由ない生活だ。

 

だけど俺と彼らの子供は魔法を使えるんだろうか?俺は異世界無双の知識があるからいいが、俺の子供は、俺が死んだ後この世界でどうなるんだろうか?出来ないかもしれないが、もし出来たら恐ろしいから毎回避妊魔法をお願いしている。

 

何者でもなかった、子ども部屋おじさんだった俺は、異世界に来て異世界人全員が注目する異世界マンガ編集になることが出来た。毎日エルフのような見た目の子とセックスし放題で、最高に美味しい料理も食べ放題だ。

 

最近は俺がもたらしたマンガを真似て、すごく下手くそなマンガを描く人がたくさん出てきた。彼らの中から面白いマンガを描けるマンガ家が出てきたら俺の人気はなくなるんだろうか。その時は潔く登山にでも行こうと思う。