異世界コック無双
エス氏は違う世界から来たと言っていた。世界というのが何だか私達にはわからなかったが。
「どうしてあなたは肉を火で焼いてから塩をかけるのですか?」
「これは料理といいます。こうして食べると美味しいのです」
エス氏はすごい人だった。彼が言うにはこういう人のことを天才と言うらしい。エス氏は天才だった。
「この新しい料理はなんというのですか?」
「これはハンバーグといいます。肉をミンチにしてから焼くと柔らかいのです」
「すごい!ミンチにするなんて発想はなかった!」
「言い忘れてましたが肉料理にはコショウをかけるともっと美味しいです」
「すごい!コショウをかけて食べるなんて!」
エス氏は他にも唐揚げポテト、味噌汁、オムレツ、マヨネーズといった数々の料理を思いついた。しかもエス氏はお金を持っていけばその料理を出してくれるレストランという店も発想した。本当にエス氏はどんなことでも思いつく天才だった。
「本当にあなたは天才ですが、あなたの料理を食べるためには一週間も店の前に並ばなくてはいけません。衰弱して死ぬ者も出ています。」
「では予約券を出します。この日時に来てくれればいいのでもう並ばなくて済みますよ」
「すごい!紙にインクで字を書いたものに意味を持たせるなんて!」
予約券を貰うのは無料だったし、他に紙とインクの使いみちはなかったから、予約券を皆で100年分作った。大人気で、あっというまになくなった。
「もっとはやく料理を作ってくれ。俺の番は24年後だ。待ちきれない」
「もう疲れたので私はレシピを売ることにします。このレシピの通りに料理を作れば私と同じ料理が作れます。」
「すごい!料理の作り方を紙に書くなんて!エス氏はこれで毎回同じ料理が作れるんだ!」
「あなた達にも同じものが作れるんですよ」
「その発想は私達にはありません。早く料理を作ってください。」
ある日、エス氏は縄を輪っかの形に結んでそこに首を通してぶら下がっていた。
「すごい!その発想はなかった!ところでそれにはどんな天才的な意味があるんですか?」
エス氏は応えなかった。