空白雑記

暇つぶし

万引き家族の整理

万引き家族を見てきた。89点。

いい映画だと思うが、後味が悪すぎる、そして父になるより悪い。考えさせられるというやつの極致。

ただ、そんな国の恥がどうとか監督がどうとか揉める映画ではないな。後味が悪すぎるだけで、いい映画だ。

俺は映画とは娯楽だと思ってるので、娯楽が好きだからこの映画には90点以上は付けられない。

 

おおいにネタバレになるので、まだ見てない人は見てからのほうがいい。

カンヌをとるくらいの映画なのは確かだから。

 

映画館が、今まで一度も見たことのないくらい静まりかえって鑑賞していた。それはもう気持ち悪いくらい静かで、咳払いすら躊躇われるような異常な静寂に包まれていた。それは、この映画を見始めた冒頭から、あまりにも重苦しい、想像し難いほどの辛い現実というやつを突きつけてくるからだ。

 

万引き家族に登場する人間は、ほとんどが闇を抱えている。善人か悪人かはおいといても。

 

というわけで整理と感想。俺は小説とかは読まず映画を一度見ただけ。

主要な登場人物でいうと

万引き一家

・父親

能がなく、日雇いの土木仕事くらいしか仕事がないし、勤労意欲もない。過去に痴情のもつれから、不倫相手の夫を殺して埋めている。(これは裁判も終わって前科がついている。)万引きを子供にやらせ(これは見つかったときの保険だろう)、通りすがりに虐待されている子供を見つけると拾って帰ってしまう(誘拐)のはおそらく母親のためだろう。車上荒らしもやってるし、特筆すべき闇は描かれてなかった。強いて言うならば息子が欲しそうなくらいか。単なる犯罪者といってもいい。最後はアパートでひとり暮らしをしていた。罪を償っていない(車上荒らし等)ので、ただのクズとして終わったように思う。またやるだろう。最後に祥太とも決別した。

 

・母親

過去に父親と不倫をして、その時の夫を殺して埋めている。子供ができない体らしく、父親と一緒に、パチンコ屋の駐車場で死にかけていた男の子(祥太)を拾ったようだ。罪を全て背負って服役する。子供をさらって来た事はこの母親の欲求であろうし、おそらくパチンコ屋で祥太を拾う事も、強く求めたのではないかと思う。しかし、子どもたちに、自分を母親と呼ばせる事ができなかった。ただ、罪を償おうとはしている。

 

・祖母

昔、夫を寝取られ、その寝取った相手と夫との間にできた息子夫婦の家に線香をあげに訪問し、金をせびっていた。また、その家から家出した娘を家族に迎え入れ、その娘が風俗店で働いても止めもしなかった。かなり闇が深く、人生も残りわずかということで、子供をさらってこようが気にしていなかった。万引き家族の団欒を経てぽっくり死。作中一番の勝ち組かもしれない。

 

・長女

作中で最も裕福そうだった家庭の生まれで、妹の名前を源氏名にして風俗店で働いていた。家出しても、捜索とかもされていないようだったから、親とは仲が悪い。風俗店の客(吃音症?)と付き合いだした。救いはないけど、資産(若さ、美しさ)を持っているのでどうとでもなりそうでもあり、万引き(犯罪)もしていない。ただ、未来は暗闇に包まれ、どうなるかわからない。信じていた祖母にも、警察からあなたはただの金目当てで腹いせだったと告げられた。悲惨だ。メンヘラの素質たっぷり。

 

・長男

パチンコ屋で拾われた。万引きしていた駄菓子屋の爺さんが、妹にはやらせるなと言ったこと、その店が潰れたこと(母親から、万引きは店がつぶれないならセーフみたいなことを言われていたが潰れた)、生活に困ったのか車上荒らしまでつきあわされるときに、これは万引きじゃなくて本当に盗みだからやりたくないと拒否し、スーパーで妹に万引きさせるのがどうしても嫌になって衝動的にわざと捕まる。この映画の中で、唯一の純粋な良心。地頭も良いようだし、イケメンでもある。本当の両親を一応探しに行くのだろうと思う。妹の事も心配してそうだが、年齢的に何ができるだろうか。児相に垂れ込むくらい?

 

・次女

美男美女の世間が羨むような夫婦(できちゃった婚)は、結婚後夫>妻のDVからの育児放棄。幼さ故に万引き一家にほいほいさらわれてしまった。半年?の虐待しない家族との暮らしの結果両親への不信は拭えず、むしろラストシーンで目に見える傷が無かったことが不自然なくらい。幼すぎるしどうしようもない。近所の人が気づいて通報するくらいしかないが、それも望みが薄い。この一番救いがない子がラストを締めくくるので、本当に後味の悪い映画だった。

 

あとはその他モブ

・長女一家

誰もが羨みそうな裕福な家庭だが、長女を切り捨ててる歪さを祖母に腹の底で笑われてる。でも、長女を切り捨てたなら、本当に誰もが羨む裕福な家庭として完結してしまう。それを闇とするか、長女を異端とするか。

 

・長女の彼氏

風俗の中でも、見るだけ系の風俗に行く人間として、完全なコミュ障として描かれていた。あまり真面目に接客してなかった長女に常連指名した結果付き合うことに。作中かなりのラッキーボーイ。そのままメンヘラと共依存してくほうが幸せだと思う。

 

・駄菓子屋の親父

作中の小さな良心。まあ、見逃すより、捕まえて説教したほうがとかいう見方もあるだろうが。妹にもやらせるのを見て我慢できず、それまでと反して声をかけた。視聴している者の気持ちをさくっと代弁した人かもしれない。

 

・警察官

若く、溌剌としていて、悪を許さず、弱きを助けようとする。ただ、長女と次女は救えない。長男は救ったかな?親なし子だから養護施設?を用意してあげた。救ったというか、親なし子には養護施設を与えるシステム。

 

整理してある程度スッキリしたが、この映画は社会の暗部を鋭く描き、答えもなく、問いかける形で終わる。

俺は、社会の暗部を描きつつも、理想や夢をのせて描くSFのほうが好きだ。

同じ社会風刺でもスターシップ・トゥルーパーズのほうが好きだ。